Vtuberの3D配信は、にじさんじのような大型プロジェクトの登場で一気に身近な存在になりました。
一方で、モーションキャプチャやスタジオの仕組みは専門用語が多く、なんとなくしかイメージできない人も多いはずです。
この記事では、にじさんじの事例に触れながらVtuberの3D配信がどのように動いているのかを段階的に整理し、個人でも応用しやすい形で解説していきます。
Vtuberの3D配信の仕組みをにじさんじで学ぶ5つのポイント
ここでは、にじさんじの3D配信をイメージしながら、全体像をつかむための5つのポイントを順番に整理します。
3Dモデルの準備からモーションキャプチャ、スタジオ運用までの流れを知ることで、3D配信がぐっと現実味を帯びて感じられるようになります。
3D配信全体のイメージ
3D配信は「演者の動き」と「3Dモデル」と「配信システム」をリアルタイムで結びつける仕組みです。
演者は専用スタジオでモーションキャプチャスーツやマーカーを身につけ、複数のカメラで体の動きを取得します。
取得したデータはスタジオ内のPCで処理され、3Dモデルに反映された映像がスイッチャーを通じて配信ソフトへ送られます。
仕上げに音声やBGM、テロップがミックスされ、YouTubeなどのプラットフォームにリアルタイムで配信されます。
3Dモデルの準備
3D配信を行うには、まずライバー本人のデザインをもとにした3Dモデルを用意する必要があります。
モデラーがキャラクターデザインから3Dモデルを作成し、骨やジョイントを仕込むリギングによって動かせる状態にします。
衣装や髪の物理挙動、表情のブレンドシェイプなどもこのタイミングで設定され、ライブ用のクオリティが整えられます。
にじさんじのような大手では、3Dモデルのアップデートや新衣装の追加も継続的に行われています。
モーションキャプチャの流れ
モーションキャプチャは、演者の体に取り付けたマーカーやセンサーを複数のカメラで読み取る技術です。
光学式モーションキャプチャでは、スタジオの前後左右と天井に赤外線カメラを配置し、アクティングエリア内の動きを高精度で追跡します。
にじさんじではVICONのようなハイエンドなシステムを導入し、ダンスやジャンプを含めた激しい動きにも対応できる環境を整えています。
トラッキングされたデータは専用ソフトでノイズ除去や補正が行われたうえで、リアルタイムに3Dモデルへ反映されます。
フェイストラッキングと表情
フェイストラッキングでは、小型カメラやiPhoneを使って顔の動きを別途取得し、口パクやまばたき、眉の動きなどを細かく再現します。
高品質な環境では、ヘルメット型リグに取り付けたカメラで表情を撮影し、専用ソフトで3Dモデルの表情リグにマッピングします。
一部の表情はボタンやキーボード入力で切り替えられるようになっており、リアクション芸や決め顔などを素早く出し分けることができます。
体のモーションと顔の表情が組み合わさることで、テレビ番組のタレントと同じような臨場感を持つ3D配信が成立します。
スタジオ運用とスタッフ体制
にじさんじ規模の3D配信では、ライバー以外にも多くのスタッフが関わっています。
スタジオエンジニアがカメラやトラッキングの状態を監視し、スイッチャーがカメラアングルやテロップを切り替えます。
音響スタッフはマイクとBGM、効果音のバランスを整え、配信スタッフが配信画面のコメントや回線状況をリアルタイムに確認します。
こうしたチームワークによって、視聴者は安定した画質と音声で3D配信を楽しめるようになっています。
配信モデルの種類を整理する視点
次に、2Dと3Dの配信モデルの違いを整理し、どのような場面で3Dが選ばれているのかを見ていきます。
違いを理解しておくと、にじさんじがなぜライブや大型企画で3Dを多用するのかも納得しやすくなります。
2Dモデルの特徴
2Dモデルはイラストを変形させて立体感を表現する方式で、カメラやPCの負荷が比較的軽いのが特徴です。
少ない機材で始められるため、個人勢やデビュー直後のライバーに広く使われています。
- 準備コストが比較的低い
- 少人数の制作体制で運用可能
- 表情や上半身の動きに強い
- 配信ソフトとの連携が容易
3Dモデルの特徴
3Dモデルは全身を自由に動かせるため、ダンスやステージ演出を伴う配信に向いています。
立体的なカメラワークや空間演出が可能で、ライブイベントや特別番組で強い存在感を発揮します。
- 全身のパフォーマンスを表現できる
- ステージ照明や背景演出と相性が良い
- 複数人での共演シーンが作りやすい
- オフラインイベントとの連動がしやすい
モデルごとの得意な配信内容
2Dと3Dは、どちらが優れているかというよりも役割分担がはっきり分かれていると考えるとイメージしやすくなります。
日常的な雑談やゲーム配信は2D、特別なライブや周年記念は3Dといった使い分けが一般的です。
視聴者側も、配信の告知で2Dか3Dかを見て「今日はどんな規模の企画なのか」を無意識に感じ取っています。
コストと制作難易度の比較
2Dと3Dは必要な制作費や時間も大きく異なるため、企画の規模感に合わせた選択が重要になります。
ざっくりとした比較イメージを持っておくと、個人で3Dを目指す場合のハードルも把握しやすくなります。
| 項目 | 2Dモデル | 3Dモデル |
|---|---|---|
| 制作費の目安 | 中程度 | 高め |
| 制作期間 | 数週間 | 数カ月 |
| 必要スタッフ | デザイナー | モデラーやエンジニア |
| 得意な配信 | 雑談やゲーム | ライブやステージ |
にじさんじの3Dスタジオ環境をイメージする
ここでは、にじさんじを運営するANYCOLORが整備している3Dスタジオの特徴をイメージできるように整理します。
大手事務所のスタジオ構成を知ると、3D配信制作の理想形や、なぜ大規模な設備が必要なのかが理解しやすくなります。
スタジオの広さと設備
にじさんじの3Dスタジオは、ダンスや複数人での企画に対応できるように十分な天井高と床面積が確保されています。
床は演者の負担を減らしつつ、モーションキャプチャカメラが揺れないように構造が工夫されているのが特徴です。
| スタジオ特徴 | 広いアクティングエリア |
|---|---|
| 天井の高さ | ジャンプやリフトに対応 |
| 床の構造 | クッション性と安定性を両立 |
| カメラ配置 | 前後左右と上から囲む構成 |
| 用途 | ライブ配信や収録番組 |
モーションキャプチャカメラ
スタジオ内には多数のモーションキャプチャカメラが設置され、演者の体や小道具に付けたマーカーを精密に追跡します。
光学式システムでは、カメラの台数が多いほど死角が減り、細かい動きまで正確に取得できるようになります。
- 赤外線を利用した高精度トラッキング
- マーカー位置から骨格データを算出
- 複数人同時のダンスにも対応
- 手指の動きまで取得可能な構成も存在
音響と照明の役割
3Dスタジオでは、モーションキャプチャだけでなく音響と照明も重要な要素です。
ライバーの歌やトークをクリアに届けるためにコンデンサーマイクやインイヤーモニターが使われ、照明は3D背景と違和感なく馴染むように調整されます。
ライブ規模の配信では、照明演出が3D背景のエフェクトと連動し、ステージの一体感を高めています。
安全とパフォーマンスの配慮
激しいダンスや長時間の収録が行われる現場では、演者の安全とパフォーマンスを守る工夫も欠かせません。
足への負担を抑える床材や、ケーブルへのつまずきを防ぐ配線ルートなどが事前に設計されています。
スタジオスタッフがこまめに状態を確認することで、ライバーが安心して全力のパフォーマンスを発揮できる環境が実現します。
3D配信が視聴者の画面に届くまでの流れ
ここからは、収録前の準備から配信プラットフォームまで、3D配信の一連のフローを追っていきます。
流れを理解しておくと、トラブルが起きた際にどこで問題が発生しているのかもイメージしやすくなります。
収録前の準備
収録前には、台本や進行表の確認、3Dモデルの読み込み、トラッキングシステムのキャリブレーションなどが行われます。
にじさんじのような大型企画では、事前リハーサルでカメラワークや演出のタイミングも細かく調整されます。
- 台本とカンペの用意
- 3Dモデルと衣装の読み込み
- マーカー位置の確認
- カメラと照明のチェック
本番中のデータ処理
本番中は、トラッキングによって取得された動きのデータがリアルタイムで3Dモデルに適用されます。
配信システム側では、背景や小物の表示、テロップや演出用エフェクトの制御が同時に行われます。
スタジオエンジニアは、フレームレートや遅延、トラッキングの乱れなどを監視しながら、必要に応じて設定を微調整します。
配信プラットフォームへの送出
3D映像と音声が完成したら、エンコーダーを通してYouTubeなどの配信プラットフォームへ送出されます。
エンコーダーではビットレートや解像度を設定し、視聴者の回線環境を考慮したバランスを取ることが重要です。
| 工程 | 役割 |
|---|---|
| エンコード | 映像と音声の圧縮 |
| ストリーム送信 | 配信プラットフォームへの転送 |
| コメント反映 | 配信画面への表示 |
| モニタリング | 遅延や障害の確認 |
アーカイブと編集
配信終了後は、アーカイブデータを保存し、切り抜き動画やダイジェスト制作に活用されます。
3D配信は見どころのシーンが多いため、編集スタッフがハイライトを選び、短尺動画として再利用することが一般的です。
こうした二次利用によって、3D配信の制作コストを長期的に回収しやすくなります。
個人勢が3D配信に近づくためのステップ
ここからは、個人勢や小規模グループが3D配信に少しずつ近づいていくための現実的なステップを整理します。
いきなり大手スタジオと同じことをするのではなく、段階的に投資していく発想が大切です。
必要なPCとソフト
3D配信には、ある程度のグラフィック性能を持ったPCと、3Dモデルを読み込んで動かすためのソフトウェアが必要です。
VRM形式の3Dモデルに対応したソフトを選べば、将来的な応用もしやすくなります。
配信ソフトはOBSなど一般的なものが使えるため、2D配信からの移行もしやすい構成です。
低コストなトラッキング機器
本格的なモーションキャプチャスタジオを用意できなくても、個人向けのトラッキング機器を組み合わせることで3D配信に近い表現は可能です。
Webカメラやスマートフォン、VR機器などを活用すれば、コストを抑えつつ全身に近い動きを出せます。
- Webカメラによる上半身トラッキング
- iPhoneによるフェイストラッキング
- VRコントローラーによる手の動き取得
- 外部トラッカーによる腰や足の補助
モーションキャプチャスタジオの利用
どうしても自宅環境だけでは難しい場合は、モーションキャプチャスタジオをスポットで利用する方法もあります。
3Dモデルを持ち込んでスタジオで撮影し、そのデータをMVや記念動画に活用すれば、コストを抑えながらクオリティの高い3Dコンテンツを制作できます。
| 利用目的 | MV制作や記念動画 |
|---|---|
| 滞在時間 | 数時間から終日 |
| 必要な準備 | 3Dモデルと台本 |
| スタッフ | スタジオ側のオペレーター |
| メリット | 高品質な3Dデータを確保 |
長期的な投資計画
3D配信は一度にすべての環境を整えるのではなく、段階的に投資することで現実的な運用がしやすくなります。
まずはフェイストラッキングと上半身3Dから始め、視聴者の反応や収益状況を見ながら機材を追加していくイメージです。
にじさんじのような大規模スタジオも、一朝一夕ではなく長期的な投資の積み重ねで作られてきたと考えると、焦らず準備を進めやすくなります。
Vtuberの3D配信の仕組みを理解して次の一歩につなげる
Vtuberの3D配信は、3Dモデルの制作、モーションキャプチャ、スタジオ設備、配信システム、そして多くのスタッフの連携によって成り立っています。
にじさんじのような事例を参考にすると、3D配信が単なる高級なオプションではなく、演出やファン体験を広げるための重要な選択肢であることが見えてきます。
個人勢であっても、低コストなトラッキング機器やレンタルスタジオを活用することで、自分なりの3D表現に近づいていくことは十分可能です。
まずは現在の配信スタイルに合った一歩を決めて、将来の3D配信を見据えた準備を少しずつ始めてみてください。

